English

私たちがしたこと:
被災地で働くセラピストのための技法

このような事態に備えた行動計画なるものはありませんでしたし、仕事でも私生活でもどうしてよいかわかりませんでした。

ハリケーン・カタリナのニューオリンズにおける長期的な心理的影響は、2年ほど経って地域の緊急の物質的な要求が満たされてから、明らかになってきました。その頃、同僚達はハリケーン・カタリナやその爪痕のことは話していませんでしたが、地元のセラピスト、キャサリン・ネイサンはその影響は継続していると感じ、自ら被災しながらも被災者を助ける役割を担う精神保健従事者への影響について調査するために助成金を申請し、受理されました。

助成金の目的、は混沌とした状況の中で精神分析的な考え方を用いて意味を見いだすこと、治療者同士が体験を共有でき、そしてハリケーン・カタリナによる、個人的、職業的な打撃を受けたことを理解するためのコミュニティを作ることでした。

介入の段階

  1. 専門家を選び連絡する 人災や自然災害を受けた地域の外に在住の、長期的・心理的な影響について詳しい専門家を捜し、連絡する。

    1 of 2 地元では誰もこの役割を担うことができなかったと感じます。私たちには、この心的外傷体験の外側にいる人が必要でした。

    2 of 2 私たちには体験を承認し、自分の体験として取り入れるよう促してくれる人が必要です。私たちはみんな心的外傷を負っていたので、お互いの体験を信じることができませんでした。

  2. 地元の臨床家を配置するボランティアとしてコンサルタントと面接をする地元の臨床家を探す。この面接の目的は被災とその後の個人的・職業的な体験を記述することでした。
    • ニューオリンズ・バーミンガム・精神分析研究所は、町中の分析家・精神衛生従事者に連絡し、彼らがまた他の専門家に連絡しました。その専門家達はいろいろな臨床的・理論的オリエンテーションを持っていました。
    • 20ヶ月のうちに、ニューオリンズで40回の面接が行われました。精神科医、心理学者、ソーシャルワーカー、結婚家族セラピスト、パストラル・カウンセラーを含む回答者は、心理力動説、精神分析学、家族構造学、脳神経心理学、精神医学、実存主義、認知行動療法、弁証法的行動療法、眼球運動による脱感作および再処理法など、様々なアプローチを持っていました。
    • ほとんどの面接は対面にて行われ、多くは個人面接で、集団面接もありました。電話面接もありました。面接は研究のために記録され文字に起こされましたが、回答者には、守秘義務が守られることが約束されました。初回面接は1時間から1時間半、追加面接は約45分でした。
    • 1 of 4面接の守秘義務が守られるのは大切なことでした。これにより、外部から来ている人との間で安心感が形成されました。

      2 of 4 人と体験を共有し合うのは重要だと感じましたが、その機会がありませんでした。幸いにも私は身内も家も無事だったので、ハリケーンから自分が受けた影響に気がつきませんでしたが、クライエントへの影響には気付いていました。彼らは聴いてもらうことを必要としていて、私もそれを求めていると気づいたのです。

      3 of 4面接前には緊張しました。このことを話すともっと調子が悪くなるのではと思ったのです。実際動揺しましたが、面接を終えてみると気分が軽くなっていました。理解してもらえたと感じました。

      4 of 4始めから最後まで自分の体験を話すのは初めてでした。大変なことを体験し、立ち直れていないのは当然だとわかりました。

    • データベースを作成し、FAR Fund NOLA主催のイベントを地元の臨床家に知らせるようにしました。
  3. コンサルタントによる公開講演 18人との面接を終えた時、Boulanger博士は”I don’t want this knowledge(邦訳:このことは知りたくない)”というタイトルの講演をしました。その講演は、自然災害が及ぼす心理的な影響について、そして精神衛生の専門家がこのような状況で直面しやすい葛藤についてでした。講演を聴きに来た100人を超える臨床家の多くが、職業上特に大きな意味を持つ”回復”について初めて考えることになりました。内側と外側の体験を関連づける心理力動説の考え方によって、疎外感が軽減されました。

    1 of 3今でもあの時の講演内容に目を通すことがあります。自分が孤独に感じるとき、他の人も同じように感じていると確認することで支えられますし、初回面接時に比べて進歩したと感じ、安心します。

    2 of 3講演を聴くことで自分の考えたこと、感じたことが言葉になり、承認されたと感じました。

    3 of 3あの夜初めて、自分が地域社会の一員であると実感しました。私たちは皆(訳者注;トラウマを)体験したのです。自分のセラピストを見つけなければと感じました。

  4. ワークショップ異なった種類、レベルの訓練を受けた臨床家へのワークショップが提供されました。ワークショップのトピックは、臨床の意義、面接実施への適応、逆転移で、これらは心的外傷をセラピストとクライエントが共有した時に必ず起こることでした。

    1 of 5セラピストとして成長するための、そしてカタリナによる喪失体験への支援、励まし、共感を得ました。

    2 of 5ニューオリンズの外に住んでいる人も私たちに関心を向けていると知って心強く思いました。

    3 of 5自分の体験を言葉にするために有用な概念を学びました。

    4 of 5ハリケーン・カタリナに関する一連の出来事への個人的な反応が明確になりました。それはまだ私の生活に陰を落としています。

    5 of 5私の個人的・職業的体験を承認してくれました。

  5. 輪読会分析センターのメンバーが引率し、トラウマに関する専門書に焦点を当てました。セラピーのコミュニティに向けた輪読会が4回開かれ、毎回定員越でした。

    1 of 3私も家族も、ニューオリンズで起こったことを今でも理解しようとしています。

    2 of 3読むことは生活の中で役に立ちました。

    3 of 3他の人との繋がりを築くのにとてもよかったです。良質で思慮深い内容は、元気を与えてくれるものでした。

  6. 閉会の集まり ハリケーン・カタリナの5回目の記念日の直後にこの会は開かれ、Linda Floyd, Phd.D., Kathy Nathan, Phd.D., Deborah Poitevant, LCSW, そして Elsa Pool, Ph.D., がハリケーン・カタリナ後の体験について話しました。その内容は、それぞれが行っていた臨床の仕事を続けることが困難であったこと、個人的な困難と臨床とを切りり離し難かったこと、ハリケーン・カタリナの甚大な被害の中では個人的に受ける影響は職業的に受ける影響でもあることに気付いたこと、などでした。

    1 of 5自分の体験を同僚に話すことで、体験を振り返り、傷つきと向き合うことができました。それはすばらしい贈り物だったと感じています。

    2 of 5複数の臨床家の話を聞けたことがよかったです。誰でも脆弱になることもあると教えられました。

    3 of 5このことについては他のセラピストと話をしていません。この職業は孤独ですが、この機会で他の人がどんな体験をしているのか聴くことができました。

    4 of 5承認、尊重、他者とのつながりは、トラウマを現在のものから過去のものへと変化させてくれました。

    5 of 5クライエント・患者への責任感を持つ人の話を聴くことで、自分は同じような心的外傷を負ったコミュニティの一員であることを感じました。

    • 最後の講演、”Where have we been and where are we going?(邦題;私たちはどこから来てこれからどこに向かうのか)”で、Dr. Boulangerは大きな災害によって生活が混乱した中で患者を診なければならなかったセラピストに面接して明らかになったことをまとめました。面接と、助成金にまつわる数年間にわたるニューオリンズでの研究から、共有された心的外傷によって引き起こされる困難な力動を分析的な立場から説明し、その困難に立ち向かういくつかの方法を示唆しました。

      1 of 4代理的・二次的心的外傷についてよりよく理解できました。統合されたものを聴くことはとても参考に成りましたし、共有された心的外傷について振り返ることができました。

      2 of 4トラウマを受けたセラピストと傷ついた治療者にとって有益でした。

      3 of 4これまでどんなに(訳者注:自分の体験を)切り離していたか気がつくことができました。そのことに気づき、もっとやることがあると気づく機会にもなりました。

      4 of 4認められたと感じました。個人的にこのことでとても困難を感じていました。私たちは心的外傷を受けたのですが、転移と逆転移について話す機会が設けられたのはとても貴重でした。

    • Boulanger博士が導入と議論を書き、地元の臨床家が共同で執筆した論文が、2012年にPsychoanalytic Dialogues に発表されます。
  7. やるべきだったこと振り返ってみると、地域の外に住む複数の臨床家をニューオリンズに招致して集会やワークショップを開き、参加者たちが継続的に体験を共有し他の人と繋がりを持てるようにすればよかったと感じます。

    1 of 2災害のためのネットワークは、一般の人々を助けるために設立されました。被災地域でセラピストのネットワークがあれば、セラピスト同士がたとえ電話ででも定期的に話すことができ、それは結果として効果的なのではと感じます。

    2 of 2災害直後に、国の専門家機構が無償で精神保健に関わる専門家のためのメーリングリストや掲示板を立ち上げれば、お互いの連絡先を知らせ合うことができたし、他の地域にいるセラピストも被災地の同僚に連絡を取ることができました。